「日本企業には優れた技術があるが、マーケティングのノウハウがないために海外企業に負けてしまう」という解説がよく聞かれ、書店にはマーケティングに関する書籍があふれている。
マーケティングの基礎の基礎として、前回はブランドの資産価値、いわゆる「ブランド・エクイティ」について解説したが、今回はそのブランドイメージを維持することの難しさについて、立教大学経営学部教授の有馬賢治氏に話を聞く。
●安売りするくらいなら捨てたほうがマシ
――前回までのおさらいとして、改めてブランドの役割について教えてください。
有馬賢治氏(以下、有馬) 消費者に対するブランドの主な役割は、端的には製品識別と安心感を与えることにあります。
これによって、消費者は製造元が明確に分かるので、探索にかける時間を減らすことができるようになります。また、責任の所在が明確になることで、購買を失敗するリスクも削減できるというわけです。
――最近よく聞く「ハイブランド」のように、消費者に社会的に高いイメージが付与できると、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
有馬 まず、消費者は所有による心理的な満足感を得ることができます。
また、ハイブランドというイメージは、高品質のシグナルにもなっていますので、それを選んだ自分のイメージをアップさせる効果も期待できます。
ブランドイメージが消費者の自己イメージを投影できるシンボリックな装置にまで成長しますと、リピート購買が期待できる他ブランドと心理的差別化が図れる手段となるわけです。
――ブランドを良いイメージで維持できれば、中長期間のリピート購買にもつながると。
有馬 はい。しかし、顧客の評価は移ろいやすく、企業は顧客が期待するブランドイメージを維持するために苦労しています。
イギリスの高級ブランド、バーバリーが、衣類やアクセサリーなど約42億円相当の売れ残り商品を廃棄していたことが明らかになりました。
これについて批判されていることは承知していますが、それはひとまず置いておいて、その意味をブランドイメージから説明したいと思います。
バーバリーは、なぜセール販売などで売上げを得ることをしなかったのでしょうか。
それは、安売りをすることで生じるブランドイメージの低下を強く警戒していたからだと説明できます。
●批判されたら即対応するのもイメージ戦略
――約42億円を無駄にしてまでブランドイメージを守りたかった?
有馬 その通りです。この場合、ひとたび安売りされるイメージがつくと、消費者からは「待っていれば安くなる」ブランドだという印象が想起されるようになってしまいます。
すると、常に定価販売される高級ブランドとして受け入れてもらうことが難しくなってきます。
エルメスなども、公式に流通している商品は免税店以外で定価よりも安く買うことは至難の業といえるほど価格管理を徹底しています。
――ブランドイメージの維持は本当にデリケートなものだということがわかりました。
有馬 良いイメージは日頃の積み重ねでしか構築できない半面、悪いイメージは誇大に消費者に反応されてすばやく浸透してしまいますからね。
ですから、バーバリーの廃棄の件はブランドイメージ維持のためには苦肉の策だったといわざるを得ません。
ですが、このように明るみとなって、さらにエコの観点から世間から批判的な目で見られていることがはっきりした以上、企業として対応を変えざるを得ないでしょうね。
これで今後も廃棄を続けるのなら、更なるイメージダウンを進めてしまうことになります。
――アパレルブランドに限らず、どの業界でもこういった対応の難しさに直面しているということですね。
有馬 そうですね。批判されたときにどう対応するかも、ブランドイメージ維持の面では非常に大切だということです。
――ありがとうございました。
引用記事:
https://biz-journal.jp/2018/10/post_25118.html